J’aime le théâtre♡

観劇日記。

『更地』

杉原邦生さんの演出で濱田龍臣くんが出ると言われたら、オレピュラの反省を踏まえて見逃すまい!ってなったよね。

木ノ下歌舞伎のお仲間でもある杉原さんだもの、古典(古い戯曲)を今の感性で観せてくれる筈何を抽出して観せてくれるかな?どんな手を使ってくるかな?という期待。

とは言え、私は太田省吾戯曲や過去の上演を知ってるわけじゃないんだけど。

でもインタビュー記事とか当パンとか今日の白井晃さん杉原さんのポストトークとかから、「長年住んだ家が取り壊され更地になった所で初老の夫婦が寂しく過去の話をする」のではなく「未来を想う」劇にしてみせたんだなということがわかった。


若い俳優二人が演じているけれど、役の設定を若くしているのでもなければ、老けて見えるような演技をするのでもない。台詞を聴いていればあれは確かに長年連れ添ってあの場所で人生を共にしてきた夫婦なのだけど、見た目や声や口調が若い(可愛らしいほどに若い)ことには意外なほど違和感を覚えなかった。ふたりの間の感覚・雰囲気だとあんな感じなんじゃない?外からどう見えてるかわからないけどうちも自分たちとしてはあんな感覚よ。

あのふたりは既に死んでる人なのではないかというふうに見えたりもしますよねってアフトで言ってたけど、私はその考えには全くならなかったなー。夫婦の、中身の部分というか、そんな感じかなと思った。

あ、劇中劇みたいな構造、と捉えることもできるのか。


ググッと惹き込まれたのはね、"無かったことになるのが怖い"という概念が出てきたところだよね。

ふたりしか知らないことは現実じゃないかもしれない?

戦争とかと違って。

黄金の記憶が欲しい、って。


でもさ、ほらほら、いつも消えてなくなっちゃう演劇がこんなに大事な記憶になってるじゃん?て思ったり。

ふたりどころか、誰も知らない、誰ともシェアしてない、あたししか知らない感情とか感想とか記憶とかあるじゃん?(一所懸命書いたりしてるけど、別に誰かに残したいわけでもない)とか。

ふたりの記憶なんて、ふたりで憶えてるんだからもう充分すぎるほど充分に確かな現実じゃんねー、とか。


あ、でも演劇は、なんだかんだ大勢で認識してる現実なのかな。それを観て心の中で起きてる感情とかは個人ひとりひとりのものだけど。それを言ったら何だってそうか。

見ること、受け取ること

見えたものは現実?

いや、演劇の場合ややこしいな。観客は好きなものを見ちゃうからな。


たっちゃん素敵だったなー。可愛い顔して、身体つき首肩のラインとかすごく男っぽくて魅力的。声も好き。発声がもっくんにちょっと似てるって以前思ったんだっけ?ラップとても上手い。ソフト帽とグラサン着けた姿が妙に色っぽくてカッコよかった。カテコの時、南沢さんに対していきなり後輩っぽい感じになるの可愛かったな。


ラップは、戯曲中に引用が用いられてて文体が他と異なる箇所なんだって。杉原さんの中ではこれが自然にラップのリズムになったみたい。

今回のラップは激情バトルとかじゃなくて、ふたりの若い頃の思い出を語る、ヒリヒリ切なく温かい感じだったな。

でも白井さんが言ったように、やっぱこれは自分の身体の中にあるリズムじゃないよなー「わ!ラップ出た!」って思っちゃうよなーというのもすごいわかるよ。


太田省吾さんは杉原さんの恩師。

戯曲を立体化するというより、そこに在る俳優の身体がその言葉を発すること、それによって生成されるものを、って教わったと。

観客と共にというのも含めて、って。

唐十郎特権的肉体論だっけ?そういう世代なのかな?白井さんよりももう一世代上なんだもんね。


白井さんが言ってた、老婦人が寂しげに佇む更地で子どもたちは何にも知らないで遊んでるっていう感じ、いやマジでそうじゃなきゃいけないなって自戒を込めて最近思ってることで。

あれ?何の時だっけ最近それ思ったの?あ、横濱吉三だったかな?

違う!そうだ、ジェイミーだ!


旅に出よう、更地にして次を、という希求は原初からあるって、そんな台詞あったよな。


戦争とか確かな現実って言うけど、この戯曲が書かれた時代とそれは変わってるなって思う。逆に、多面的で、いろんな人にいろんなふうに語られる事ってどうよ?その中の何を現実として捉える?とか思う。


期待どおり、ワクワクする美術と演出(照明も印象的!)だったなー。

開演10分前から舞台上でゆーっくり歩く(舞台に足を乗せる時からゆーっくりだった)ふたり。太田省吾オマージュなんだって。その時間(客入れ中ずっと)は地鳴りのような響きから音楽も照明もSF的だった。何本も光ってる蛍光灯がライトセーバーみたいだった。宇宙?

大きな黒いシートを被せて更地になったところからはいろんな想い出を掘り出すこともできるけど、ふたりで虹色の場所に変えることもできた。

老夫婦自身の手によってではなくても構わないそうね、虹色の幕を吊ったのは若者ふたりなのかもしれないね。ニコニコ笑顔を交わしながら作業してた。シームレス二役って感じかも。

冒頭ふたり並んで"これから劇を始めます"っていう幕開きで、たっちゃんたちが老夫婦を演じるに当たっては「ごっこ遊びの感じで」と杉原さん指示したらしい。その結果、私には"老夫婦の中身"に見えたんだよね。


あの場所でまたおんぶのくだりから繰り返し(15秒だけ」みたいな言葉とか☺️)、想い出を掘り起こし、ふたりで歩んできた人生を愛おしむ老夫婦の姿もそれはそれで素敵に思えたよ。哀しいとか憐れに見えたりはしなかった。

ジェイミーでも思ったけど、オトナはオトナで生きてるし感性を持っている。でもオトナの私としてはね、自分には想像もつかないような新しいものが出来ていくことを恐れて妨げたりしちゃいけないよなーって思う。


これ初演のような見せ方実際そういう年齢の役者で、"更地になってしまった寂寥"みたいなだったら、私はたぶん好きじゃない。観ててキツいわーってなるよね、きっと。


戯曲(太田省吾さんは「テクスト」と言うんだって)読みたい。でも簡単に入手できないんだなー。


ツイッターで感想追っててふと気づいたんだけど、おそらく若い人が「あんなふうに年を取りたい」みたいなことを言ってて、そうか年齢を重ね人生を積み上げた老夫婦の姿は若い人たちにとっては"未来"なんだな、と。

そういえば子どもの頃とか若い時って、いろんなめんどくさいこととか通り抜けてオトナになること・ちゃんと年を重ねることが途轍もなく果てしないものに感じられたり、早くそこに辿り着きたいと思ったりするよな。

可愛くキャッキャしてる老夫婦の姿は、若い人たちにはそれ自体が"未来"とか"希望"に見えるんだ。


11/9 今夜は杉原さんと木ノ下さんのアフトがあるとのことでめっちゃ聴きたいけど行けない😢でも木ノ下さんの配信視て妄想できちゃったんだよ!w

「歌舞伎ひらき街めぐり ~木ノ下裕一の古典で読み解く江戸⇄東京講座」只今配信中の第2回は隅田川物について、鐘ヶ淵という土地が様々な物語を引き寄せたというテーマだったけど、聴き捨てならない桜姫ワードがいっぱい出てきて「世界」の話をいっぱいしてくれて(木ノ下さんも世界大好きなんだって♪「世界綱目」というアンチョコ?があったことを紹介してくれた)、こりゃもうキノカブ桜姫への期待も高まっちゃう私得回だった。

で、購入者には無料で再配信してくれてるからザッと見返して思い出した第1回吉三の回、両国疫病・災害・戦火などにみまわれた江戸・東京の人々への鎮魂(地獄斎日の場とか)

江戸からいろんな土砂・記憶が積もった上に現在の東京みたいな話から、このタイミングだから当然『更地』のことも思ったよ。そんな話をアフトでするのかなーってね。

どうやら木ノ下さん、劇場って一度まっさらになって未来を考える場=更地かもね、みたいなことを仰ったらしい。森フォレの時に成河さんが言ってたことだな☺️

確かにこの劇で、黒シートの下から思い出アイテムを掘り起こしてくることも印象的なのよね。下には間違いなく埋まってる。黒シート被せて、さらにその上に虹色シート被せていく、そのイメージは、江戸の上に今の東京が出来ているという見方にマッチするのよ。


ずっと積み重なってきてることを知った上でここから先は自由!っていうのより、

ジェイミーとか昨日白井さんが言ってたような、過去を踏まえないからこその軽やかさ、っていう方がより今必要なんじゃないかとも思うし、

でも、とは言ってもねというのが現実なんだからそれを認めた歩み方を考える方が実際的だしもしかしてより進歩的な見方なのかもしれない、とも思う。


知った上で、囚われることはなくホントに自由にできたらそれがいちばん良いのだろうけど、なかなかねぇ。

だから、もう何かこれまでの事をまったく踏まえないようなやり方で行ってもらうしかないわー賭けだけど!って思うくらい今の我々の社会は膠着している。

賭けだよ。リスクはあると思うよ。でも一旦更地にしちゃう。そこで子どもを遊ばせてみる。


ははん「常に新鮮な驚きをもって過去を知り直していく過程が美しい」って感想で書いてる人がいて、なるほどなーと思った。それまさに杉原さんやキノカブが古典と向き合う姿勢だよね。

あ、でもこの感想って、見方を変えて過去のこと自体が虹色に見えるようになるっていう理解なのかなぁ。凡庸な過去に輝きを与えるみたいな。それがこの作品の従来の受け取られ方なのかもね。


https://booklog.kinokuniya.co.jp/nisidou/archives/2008/08/post_34.html

太田省吾さんの劇について。面白いなー!


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杉原さんこんなことも言ってたんだ。これはまた興味深い視点だよなー。