J’aime le théâtre♡

観劇日記。

『パンドラの鐘』2回目

2回観終わって反芻して、ジワジワと「あ、このホン面白いな」と思っている。

 

鎮魂の鐘。その音色に魅せられる幼き女王。

「化けて出てこーい!」で鐘の上に和装で現れた姿はとても美しく神々しかった。あんなにあどけなくはしゃいでたヒメ女がって、このラストに向けて2時間積み上げてるんだなー。

 

ミズヲは、ライフストリームの中に還った命かな。そんな感じ。

みんな死に絶えて誰も居なくなればって、人間の営み(科学技術)は地球環境にとって害悪であるという視点か!

 

卓越した想像力で古代と繋がるオズ、でも現実世界には疎く、社会情勢にも興味がない。古代の声は届いたが、活かすことはできなかったんだ。残念。タマキもさぞもどかしく思っただろうな。

 

そうか、鐘は、パンドラの箱…"科学技術"のことなのか。光と災厄をもたらす。若いミズヲやヒメ女が惹かれて夢中になるのもよく分かる。

 

後ろが開いた外は晴れた昼間の忙しい渋谷。より一気に現実に引き戻される感。たまたま通り掛かった運送業者さん?がこちらに気づいてギョッとして逃げてたけど、そうよねビックリしますよね。そちらから見た光景を想像などしてみる。

 

ピンカートンのひ孫?の日米ハーフ(クォーターとか1/8では?父があの蝶々さんの息子の息子ってことだよね?)のタマキが「待ってるなんてバカ。死ぬなんてもっとバカ!オホホホホ」と、母に負けず高笑いで去って行く強さ、好きだよ。

 

そっか、パンドラの箱なら最後には希望が残ってるのか昭和の時はダメだったけど、きっとこの次は大丈夫、古代の声が届くはずっていう希望か。この声を一緒に劇場で聴いている人たちがいるから。耳を澄まして地に着けているミズヲと同じように。能舞台から死者の声を聴く。

 

鈴は金偏に命令だからイヤ!鐘は金偏にわらべ。その音は鈴みたいに直接刺さるのではなく、自由に立ちのぼるように飛んでいく、みたいなことを言ってたかな。音楽的な感覚を持ったヒメ女。

そんな鐘の音が未来に届くに賭ける、とミズヲは言う。

 

自分から意見を述べず「どう思う?」と尋ねて人に言わせる、カナクギ教授とヒイバア。上に立つ、狡い人の典型。

亀蔵さんの声は本当に素晴らしい。歌舞伎役者の発声ってなんか特別なんだろうか。

白石さん初日よりずっと調子良かったと思う。

 

ハンニバルって、どういう生い立ち・経歴の人なんだろう?ヒイバアの手下だけど、ヒメ女に思い入れはあると思う。武官として体制に尽くす男。最後はヒイバアに裏切られクーデターの汚名を被って退場。なんかグチャグチャになったけど、攻めてきた敵(未来)からの最後通牒にみんな結局逃げて居なくなっちゃったからね。滅びの前日。

 

「戦争の相手はいつも未来。でも始める時にはそれはわからない。そして未来には決して勝てない」ってヒメ女言ってた?ミズヲだったかな?これ、どういうことだろう?

 

あー戯曲読みたくなってきた。

読んだ!

 

そうだ、現代の玲央さんが言った「古代と現代の取引です。共に静かに暮らしましょう」って、なんかゾッとしたんだった。歴史修正主義だよな。

あ…どう生きたかなんて問題じゃない、どう死んだかが問題、みたいな話してたしてた。スリーピルバーグスを思い出したんだった。

 

空気とか勇気とか。狂気とか。

見て見ぬふりをする(うすうす気づいてるのに)、都合の悪い事実は隠そうとする、威勢の良い大本営発表ばかりする怖い怖い。

 

あぁ「戦争の相手はいつも未来、未来には決して勝てない」って話

旧体制がひっくり返され新体制にとって替わっていく、歴史の積み重なりのことか。旧いものは下に埋もれていく。

勝ったものが即ち"未来"だからね。未来には決して勝てないんだわ。

そっか、ヒメ女は自ら埋まることにしたのか。花咲く丘の美しい風景が焼かれることのないように。人間の作る体制なんて所詮はそうやってどんどん遷り替わっていくものだから。ヒトの繁栄など地球・宇宙の歴史のなかのひと時代に過ぎない。

人間は死に絶えて姿はなく、生命は鐘の音のように風に溶けている、究極的にはそれがあるべき世界の姿だとミズヲは思っていたし、ヒメ女もそれを理解し、惹かれた。王という仕事とは相容れない考えだけど。

そんなふうに考えて自ら埋まった王の存在は、後世の王・為政者にとっては消したいものだよな。

 

政治批判、社会批判、戦争責任、科学倫理、更には歴史観、生命観ものすごくいろんなものが散りばめられたエンタメ。それこそ、たくさんのカケラが埋まっているんだね。

ふわぁ野田さんやっぱすげぇんだなってなってる今。

何気なく見える遣り取りや言葉遊びみたいな台詞が後々テーマ的なところに収束されていくのもすげぇわ。

なんて言うかね、鮮やかな作劇。

まえがきやあとがきでは野田さんだいぶおちょけてる、照れ屋さんなんだな。

 

広げて散らかして遊んだところから観客もろともグワッと持ってきてみんなで劇のラストを迎える。そのためには役者の力も相当に必要な筈。まだまだ期待するよ!