J’aime le théâtre♡

観劇日記。

serialnumber『Secret War -ひみつせん-』

登戸研究所の話、731部隊の話は劇チョコ『遺産』が強烈だったし、あの時も彼らは決してマッドサイエンティストなどではなく…という言及はされていたし、女性タイピストの視点とか後世に取材する記者の視点とかってまぁよくある語り方だよね…みたいな、わりと引いた感じで序盤は眺めていたんだけど。

 

若い市原と桑沢それぞれの実験結果報告のシーンで、南京で人体実験をしてきた桑沢を演じる宮崎秋人くんが目にいっぱいの涙を溜めて真っ青な顔でホント壊れそうなのを見たところからググッと惹き込まれてしまったよね。

釜山での牛疫実験を報告する市原と対になる形で、牛と人間が実験動物として同等に語られていると見えたのはとてもショッキングだった。

 

その前に、三浦透子ちゃん演じるタイピスト琴江の「私たちが我慢したってしなくたって勝つ時は勝つし負ける時は負ける」という台詞は好きだわーと思ったよ。物事の因果関係をちゃんと冷静に見れる、ヘンに過剰な物語を作り出さない理系脳ナイスだな!って。

 

「女性」というトピックも込められていたのは興味深かった。女性は銃後を守るしかない、情報も機会も与えられない、個人の興味や適性などは問題にされない時代(今だって果たしてどうかね)。「私たちは銃が見えるくらいのところにいるでしょ」と言う古川さん。もっと機会の与えられていない女性たちのことを考えたら私たちが頑張らなきゃ!みたいなことを言ってた。「でもどこまで行ったって銃なんて見えなければいいのにとも思う」とも言ってたね。

遥子が言ってたパチンコの負け率の男女差のデータは面白い。"男の沽券"とかってマジ厄介。これも男に限らないと思うけど。劇チョコ『帰還不能点』も思い出したわ。

あぁ「環境に優しいプラスチック」の話もしてたね。そうなんだよな人間社会って、後戻りはできない。アフトで日野氏が話されていた原発の問題なども正にそれだ。

 

戦争の予兆の一つとして「作家の言葉が勇ましくなる」というのが挙げられていてゾッとしたな。そういうのに知らず知らず蝕まれていくの怖い怖い。

 

王さんはてっきり桑沢かと思ってたら、ヒャッ!首括っちゃった😨ここの秋人くんの芝居も凄かったなぁ。秋人くんすごくキツイ役で大変だと思う。「前線に送られている同世代たちにお前の良心の呵責などを語ることができるのか」とか言われてキツイよなぁ。

カテコでは笑顔が見れてホッとした。大谷さん柔らかいお顔で秋人くんとしっかり目を合わせて迎え入れてくれるの優しいね。

 

坂本慶介くん演じる市原はとても誠実で素直でリベラルで快活で魅力的な人だった。言われてみれば大谷さんの王さんの纏う空気と繋がるわ。

 

琴江と市原は人間として共鳴し惹かれ合うものがあったというのが、透子ちゃんと坂本くんの佇まいからよく伝わってくる。

人体実験の話を立ち聞きしてしまい動転している琴江に、市原は「必要だよ」と言って代用コーヒーの話をしたね。これが彼女の気持ちを上向きにするって分かってた。

科学に対して2種類の「よく眠れない」(苦悩と興奮)が実感としてわかる、というふたり。

お互い"男女である"という社会通念(相手への気遣いも含めて)も持っていたから近づくことなく離れてしまったね。

最高の伴侶になれたかもしれないのに。

後にその想いを綴った市原の"恋文"

それが恋文であると分かる遥子。

そう言えば、遥子と王さんは最初から決して刺々しい雰囲気にはならない。遥子は彼が祖母と心を同じくした市原であると確信していただろうが、王さんは突然やって来たジャーナリストをもっと警戒したり邪険にしたって良かったのだ。年齢や過酷な経験を経ても陰鬱になったり偏屈になったりせず、元来のオープンマインドを失っていなかったんだね。

あゝカテコで大谷さんが秋人くんへ向ける笑顔は、市原として旧友と再会できた喜びでもあるのかな🥹

 

「恐いから知りたい/恐いから遠去けたい」という台詞もあったな。

そういう、なんかこう、私の中のセンサーに掛かる台詞たちがたくさん。

 

「撃たれて死ぬ人たちは自分が撃たれるとは最後の最後まで思わないんでしょうね」と言ったのは確か琴江だったと思うけど、現在まで"秘密戦"は続いているのだと王さんが遥子に語る傍から、後ろのテレビ画面の向こうで9.11テロが。

そして今現在も戦争している国がある。

軍備、戦争のための準備はどの国でもずっと怠りなく行われている訳だから、戦争はいつだって始めることは可能。始めまいとする意志だけが砦なのか。

 

科学に惹かれその果ての恐ろしさまで自覚した上で今はそんな自分だからこそ担える役割がある筈とジャーナリストの道を選んでいる遥子を、市原は嬉しく眩しく見つめただろう…そこに琴江を重ねて。

次世代を、子どもを育てるということに希望を思ったりもするね。

古川さんやユキちゃんは戦後どのような人生を送ったのだろうか。

 

松村武さんが演じた温かい人間味のある判戸さんも、森下亮さんの明るいオタク研究者山喜も良いキャラだった。

あ、夏ポテトごちそうさまでした!